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奇跡などない [ことば]

奇跡の生還。
奇跡の大逆転。
奇跡の勝利。

奇跡の大安売りはいまさらのことではない。

はたして奇跡はあるのだろうか。
それともないのだろうか。
奇跡とはいったいなにものなのだろうか。

その判断をないがしろにしたまま、奇跡はあるだろう、奇跡はあるんじゃぁなかろうか、奇跡はあってもいいんじゃないだろうか。

けっしてこの範囲をこえることはない。

奇跡という言葉はつかわない。
奇跡をつかうと、そこで思考が止まるからである。
奇跡だ、といってしまえば、すべてのできごとを、人知の彼方へ追いやってしまうからである。

いや、むしろ、そこから始まるべき顛末の整理をうっちゃってしまいたいがため、奇跡という言葉をわざとつかうのか。
それが奇跡を軽々しく口にしてしまったり、文字にしてしまったりする、ほんとうの理由なのではないのだろうか。

奇跡すらも、さっさと水に流してしまうのである。
人がそうするんだもの、自分だってそうしなくっちゃ。

はたして奇跡は毎日起こる。

やがて、
「こんにちは。」
という挨拶が、
「奇跡ですね。」
「ほんとうにきょうは奇跡ですね。」
という、わけのわからないやりとりになるかもしれない。

奇跡などない。
そう覚悟するほうがすっきりしている。





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