SSブログ

人生ビデオ [掌編]

健康は概念でしかないのだけれど、健康なひとは傲慢だ。
あすいきているという不確かなことを、うたがいもしないなんて。

人生ビデオをみせられたんだ。
いままでのおいらの人生を見られるからってさ。
バッカじゃあるまいし、そんなはずないじゃん。
ってね、おもっていたの。

で、見せてもらったのよ。
びっくりしたよ。
だっておいらが映っているじゃん。
マジ。

でさ、ギリギリっていって検索、えらんでそこ見せてもらったんだ。
やっべぇのなんのって。
いままで、しらないあいだに死にかけてたんだよ。
マジ。

25回あった。

そんなはずないじゃん、っておもってたからね。
もうぶっとびさ。

死にかけたのは、ほとんどおぼえてないわさぁ。
でもああしてみせられたら、もう、なんともいいようがないっていうか。
チビのころ、道わたってるとき、車にはさまれそうだったのをおぼえていて。
ああ、やっぱりあぶなかったんだ、っておもった。
友達が、いってたもんなぁ。
あぶなかったって。轢かれるんじゃないかとおもったって。あおざめた顔してた。
ああ、あれだよ。
あとはおぼえてないんだけれど、こう見せられちゃぁなぁ。納得もくそもあるもんか。やべぇっておもったもの。

気ィつけたほうがいいぜ。車はやっぱあぶないぜ。被害者は圧倒的にすくない。あとは加害者になる可能性をふくめると、ほとんどが加害者の可能性があるひとばっかしになる。

加害者はいわば健康なひとでしょ。被害にあってないんだから。
健康は概念でしかないのだけれど、健康なひとは傲慢だよ。
あすいきているという不確かなことを、うたがいもしないなんて。まったく。

人生ビデオをみせられないとわかんないんだろうなぁ。ナンマイダァだよ。ほんと。





nice!(0) 

おもしろいひと [掌編]

おもしろいひとがいた。
ひとの才能をみきわめる。
ほんの数例をあげてみる。

「あいつは、畑作をついだわけだけど、ほんとうは学校の、それも大学の数理科なんぞで教鞭(きょうべん)をもつと成功したのにな。農業高校にいっちまったからなぁ。」(享年65歳農業後継者)

「札幌でサラリーマンか。もったいないな。おもしろいやつだった。落語でもやると、はまったのにな。名人になる道だってあったのに。おしいよ、ほんと。」(享年59歳会社員)

「あいつはさ、サッカーよりも相撲のほうが出世したはずさ。強靭な足腰、そしてばね。短距離はずばぬけていたな。ああいうのは、そっぷかたのいい関取になれたのにな。もったいないことをした。」(享年53歳元サッカークラブ監督)

「地方官吏にあまんじたのがな。さみしいよ。町会議員から、国会議員、ていうのはむつかしかったにせよ、道議くらいはなれたんだろうけどな。家具屋のせがれで妹しかいなかったからな。」(享年62歳自営)

「あいつ、おいらすきだったんだ、ほんとうは。ま、しゃあないけれど、おれと結婚してたら、しあわせかどうかはわからないけれど、医者にしてあげたっかたな。いい外科医になれたのにな。あのこのつくるパン、ふつうだったよな。」(享年63歳主婦)

吉岡くんの葬儀でのこと。
かれはわたしのとなりにこしかけて、ポツリといった。
「くすぶってなんかないよ、あんたは。よくがんばってる。つづけなよ。それでいい。だれかがみてくれる。しんじていいよ。」
遺影につぶやいたのか、それともわたしへのなぐさめなのか。
とまれ同級生の好誼(よしみ)から発せられただけなのだろう。
吉岡くんは小学校の教諭であった。

おもしろいひとがいた。
ひとの才能をみきわめる。
ただそれは死後でしかなかった。

おまえさんはどうなのだい、とたずねたことがある。
かれは笑ったまま目をとじた。
「あんたがうらやましいよ。」といった。
かれ自身の才能については終始くちをとざしていた。





nice!(0) 
共通テーマ:日記・雑感

よし、いこう [掌編]

大震災できずつくひとは被災者だけではなかった。
津波の映像をみ、土砂くずれを、洪水を耳にする。
あすはわがみとかれはおもう。
被災地へいくこともなく、義捐もしていない。
被災地へいくことはできただろう。
義捐だってできないことはない。
しないだけだ。
かれはしっている。
あすはわがみ。
かれはおもう。
なにもできないのではない。
なにもしていない。
なにもしない。
それだけだ。
かれは笑わなくなった。
なにがおもしろいのか。
かれはおもう。
だれかがひっぱっていかないと、なにもすすまない。
ひとりがまず、でしゃばることをしないから、だれもあとにつづかない。
あとおいはだれにでもできるから、まず先頭になるひとがでてくること。
いや、そういうひとはすでにいて、ただ脚光をあびないだけなのかもしれない。
メディアにはたよれない。
だれもしないのなら、おれがすればいいだけのこと。
かれは武者震いし、そとへでた。
しばらくして高速で駆けてくる自転車と衝突した。

かれはベッドのうえにいた。
ラジオのコミュニティFMから John Lennon 'Stand by me' がながれてきた。
かれの目になみだがあふれた。

大震災できずつくひとは被災者だけではなかった。
津波の映像をみ、土砂くずれを、洪水を耳にする。
あすはわがみとかれはおもう。
被災地へいくこともなく、義捐もしていない。
被災地へいくことはできただろう。
義捐だってできないことはない。
しないだけだ。
かれはしっている。
あすはわがみ。
かれはおもう。

なみだがながれた。
なみだはまだのこっていた。
かれはおもう。
よし、いこう。





nice!(0) 
共通テーマ:日記・雑感

ありゃりゃのあ [掌編]

ブラックホールなんていうけれど、ありゃぁ、最初にきづいたひとがホール、つまり穴だわな。そういうふうにみえたんだろな。だからそうよばれているだけのもの。
たとえばさ、風呂につかるじゃん。そこで、水面に浮いてるものを風呂桶にながしこむ。
それがブラックホールの原理でさ。ながれこんだものは、桶のなかをぐるぐるまわる。桶はいつかは満杯になる。あふれるわな。それでできあがったのが、銀河。そんなもんさ。
だれかがホールっていったじゃんか。だから、みんなホールっていうか穴、だとおもってうたがわない。いや、うたがえないんだな、たぶん。
ひとの想像力なんてのわぁ、そんなもんだね。だれかがみたものか、きいたもの。その範囲を超えるこたぁない。というか、超えることなんかできないんだろうよ。これだって、超えるっていうイメジじゃぁなくって、あふれるというほうがあってるとおもうんだがね。
手のうちにあるのだって、ことばしかないわけで。これなんかは不完全でしかも限界のかたまりでね。だいいち、ことばいじょうのことあらわせないじゃんか。
あたらしいおばかがあらわれないとな。ま、おれみたいなもんかもしんないけどな。へへへ。だれも信じないのよ。そりゃそうだっつうの。ばかいってらぁ、程度にしか見ない。ま、しゃぁない。それがひとなんだろう。脳は脳しかないわけで。その範囲内でかんがえるしかできない。
想像はムゲンだなんて、ばかいっちゃぁいけない。宇宙人がいるかいないか、そうじゃなくって、まず物質があるかどうかで、動くのがひとだけれど、宇宙人は動く、とかってにおもいこんでるだけじゃん。宇宙人の想像図をみてごらんよ。みんなどこかでみたりきいたりしたものをいびつにしたもの。
それだけのもんだよ。ははは。





nice!(0) 
共通テーマ:お笑い

ぎりぎり [掌編]

黛は飛込むつもりでいた。
快速線に飛込むつもりでたっていた。
踏切は5ケ所だとおもっていた。
この時刻、快速線はだいたい15分おきにはしってくる。
黛はかんがえていたわけではない。
いつも利用する電車、だからおぼえている。ただそれだけのことであった。

「まいったなぁ。」
黛のとなりにひとがいて、まるで声をかけてきたもののようにいう。「まいったなぁ。」
黛はひとが去ってからにしよう、とおもった。
「まいったなぁ。」
おとこはもうしわけなさそうにいった。
あたまをぺこぺこしながら、下顎をだしたりひいたり。
なんだ、こいつ。じゃま。
黛はむっとする。
「それ、おいらのハンカチなんっす。」
なにをいっていやがる。
黛はおもう。
さっさとうせろ、このうすのろ野郎。
するとそのおとこ、すこし表情をこわばらせ、
「それ。」
といって顎で黛のあしもとをさした。

「ふまれてしあわせなんですって。」
わけのわからないことをいう。
黛はあしもとをみる。たしかにハンカチをふんでいた。
黛はすこしだけ恥じた。
おおげさにハンカチをふんでいた足をずらすと、あやまった。

「それ、ただのハンカチなんすっけど、つれがえらんでくれたんで。」
へへへ、
おとこはわらった。

「たすかりました。」
と、おとこはいった。

「よかった、よかった。」
黛は泣いていた。

たすかったのはわたしだ、と。
黛は泣いていた。





nice!(0) 
共通テーマ:映画

GUERNICA GERNICARA [掌編]

美術館は、まさに長蛇の列。
2時間ないし3時間待ちである。
「こんなにならんで、ばっかじゃないの」
「しょうがねぇだろ、きょうしかこれないんだから」
「時間えらべばよかったのに」
「いまさらいうなよ」
「…それにしても、がまんづよいっていうか、どいつもこいつも、よぉく、だまってまってるもんだ」
おれもそのうちのひとりだ、な。

おめあての絵にたどりついた。
1時間45分たっていた。

ちびっこがひょっこりと絵にちかづいた。
こうべを左、右とふりながら、べろをだしてからだをくねらせる。
「なんだこれ」
ちびっこはいう。
「へんな絵」

まわりのおとなたちは不意をつかれた。
めのまえの絵は大巨匠が描いたものだ。
それを、へんな絵よばわりされたのである。

へんな絵か。
おじさんはおもった。
…たしかにへんな絵だ。
…どうみてもかわった絵だ。
…そういえば、なぜみんなこの絵のまえでわらわないのだろう。
…わらってはいけないのだろうか。
…へんな、かわってる絵だって、いっちゃいけないのだろうか。

たしかに。
めっちゃ、へんな絵で、すったまげている絵じゃないか。
作者の動機に説明がほどこされている、とはいえ、へんな絵。
それにかわりない。

ちびっこのほうがまちがっていないじゃないか。
その絵のまえで、
しかめっつらして観ているほうが、
絵のたのしみかたをしらない。
おじさんはそのちびっこのくもりない眼をうれしくおもった。

そのおおきな絵の下には、
GUERNICA GERNICARA (ゲルニカ)
と書かれていた。





nice!(0) 
共通テーマ:アート

しらなかったではすまないぜ [掌編]

知人はわたくしにいった。

おまえの国は最低だな。
あいつのような男を自殺させるなんて。
最低の国だ。
ああいう男を、自殺させないようにすること。
それがおまえの国をまともでいさせる、ただひとつの道であったのに。
それすらできない。
最低の国ということだ。
あいつを自殺させては、いけない。
ああいう男こそ死においやってはいけなかったんだ。
それすらも、わかっていない。
ああいう男はほかにいない。
救世の意味をしっているのか。
そのことをしっているひとも、決定的にすくなかった。
おおければいいというものじゃないから。
すこしでも、いればいい。
わかっているとおもっていた。
おれが浅はかであったのだ。
わかっているとおもっていたのだ。
もうやつがいないいいじょう、おまえの国はおわる。
もうもどらない。
覚悟。
覚悟することだ。
おまえができること。
それはただひとつ。
あたえられたいのちをまっとうすることだけ。
ああいうおとこがいないのだから、
苦しくなる。
それはわかっていたはずだよな。
しらなかったではすまないぜ。





nice!(0) 
共通テーマ:お笑い

屹立 [掌編]

屹立(きつりつ)
山などが高くそびえたつさま
http://www17.plala.or.jp/borisu/fujun_sports.archives07/fujun_sports.05.19.07.html
nice!(0) 
共通テーマ:学校