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おもしろいひと [掌編]

おもしろいひとがいた。
ひとの才能をみきわめる。
ほんの数例をあげてみる。

「あいつは、畑作をついだわけだけど、ほんとうは学校の、それも大学の数理科なんぞで教鞭(きょうべん)をもつと成功したのにな。農業高校にいっちまったからなぁ。」(享年65歳農業後継者)

「札幌でサラリーマンか。もったいないな。おもしろいやつだった。落語でもやると、はまったのにな。名人になる道だってあったのに。おしいよ、ほんと。」(享年59歳会社員)

「あいつはさ、サッカーよりも相撲のほうが出世したはずさ。強靭な足腰、そしてばね。短距離はずばぬけていたな。ああいうのは、そっぷかたのいい関取になれたのにな。もったいないことをした。」(享年53歳元サッカークラブ監督)

「地方官吏にあまんじたのがな。さみしいよ。町会議員から、国会議員、ていうのはむつかしかったにせよ、道議くらいはなれたんだろうけどな。家具屋のせがれで妹しかいなかったからな。」(享年62歳自営)

「あいつ、おいらすきだったんだ、ほんとうは。ま、しゃあないけれど、おれと結婚してたら、しあわせかどうかはわからないけれど、医者にしてあげたっかたな。いい外科医になれたのにな。あのこのつくるパン、ふつうだったよな。」(享年63歳主婦)

吉岡くんの葬儀でのこと。
かれはわたしのとなりにこしかけて、ポツリといった。
「くすぶってなんかないよ、あんたは。よくがんばってる。つづけなよ。それでいい。だれかがみてくれる。しんじていいよ。」
遺影につぶやいたのか、それともわたしへのなぐさめなのか。
とまれ同級生の好誼(よしみ)から発せられただけなのだろう。
吉岡くんは小学校の教諭であった。

おもしろいひとがいた。
ひとの才能をみきわめる。
ただそれは死後でしかなかった。

おまえさんはどうなのだい、とたずねたことがある。
かれは笑ったまま目をとじた。
「あんたがうらやましいよ。」といった。
かれ自身の才能については終始くちをとざしていた。





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