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まえむき [ことば]

わたくしは、
まえむき、
ということばがすきになれない。
まえむき、
とは、そも健康なひとたちがつかうことばでしかないと感じているからである。

健康なひとたち、というのはあなたでありわたくしである。
世の大半のかたがたのことである。
大けがや不慮(ふりょ)の事故、病、災難にあったことがないおおくのひとのことである。
ほとんどのひとのことである。

かれらはまえむきということばをよくつかう。
まえむきにかんがえよ、
まえむきにいこう、と。
大けがや不慮(ふりょ)の事故、病、災難にあったことがないおおくのひとは、まえむきといことばを、かんたんにくちにする。

大けがや不慮(ふりょ)の事故、病、災難にあったとき、ひとはどうしてよいのかわからない。
あわてふためく、か、泣く、か。
大けがや不慮(ふりょ)の事故、病、災難にあったとき、ひとはそうするよりほかない。
罵詈雑言を吐いて吐いて吐きつくし、怒り怒って怒りぬいて、のろわれた人生を悔いて悔いて悔いぬいて、そして泣いて泣いて泣きぬれて。
はじめて冷静になりうるのではあるまいか。
まえをむく、のはそれからだ。

健康なひとは傲慢で、そのことをしらない。
健康とはそういうことなのだ、とわたくしはおもっている。
それが健康であるいじょう、いたしかたない。
ひるがえって健康なひとができること。
それは、まえむきということばを発しないこと。
それだけでもましなのではなかろうか。

俵(歌人)万智さんが、おこさんとの素敵な会話をひとつ。
「先生ってさあ」と息子。
「よく、前を見なさい!って言うよね」。
まあ、あんたがよそ見ばっかりしてるからじゃない?
「でもさあ、オレにとっては、見ているほうが前なんだよね」
…ん?






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